2017年06月01日

「時」を解く

1789年7月、フランス革命が勃発しました。バスティーユの牢獄が破壊され、市中へあふれ出た囚人たちは、手当たり次第に、時計台の時計を破壊したと伝えられています。


囚人たちにとって、時計は、きっと自分たちの行動を縛る手かせ、足かせの象徴だったのでしょう。時計は不自由とかかわっていたのです。


時間とは一体何なのでしょうか?


鎌倉初期の禅僧で永平寺の開祖・道元禅師は「ほとんどの人は時間を過ぎ去りゆくものだと思っている。本当は時間は、いまここにとどまっているのだ。時間を過ぎゆくものと思ってみているため、時間が今あるところにとどまっていることがわからないのだ」と述べていますし、物理学者・アインシュタインは「過去、現在、未来を切り離す区分は、全くの幻想としての価値しかない」と述べているそうです。


因果性と共時性


私たちは“思いが現実となる「因果律」”の世界を生きています。イエス・キリストの「求めよ、さらば与えられん」という言葉はよく知られていますね。


「因果律」は「世界には始まりと終わりがある。私たちの身の回りに起こる出来事は、時間が直線的に変化している」ことが前提となっています。


そこには“思いが原因、結果が現実”という世界があるわけですが、思いが現実となるまでにはある程度の時間が必要ですし、その間に様々な出会い、すなわち「縁」があってこそ現実が生まれることになります。


すなわち「因」と「果」の間には、それなりの時間が必要となりますし、何よりも「縁」に恵まれる必要があります。因果律を図式で表しますと

「因」―「縁」―「果」

ということになります。


私たちが実生活で体験する「因果律」は、時間の経過とともに現実が変化していく過程を表すものですが、主体としての「私」はその現象にかかわることなく、外からただ観察をしている存在です。


それに対して、空間的にへだたっているにもかかわらず、そこに存在する二つ以上のものの間に、何らかの力(気)が働いて、共鳴・同調現象が起こるということがあります。


「因果律」は、時間の経過とともに現象が変化していく過程が問題となりますから、こうした観点から現象を見ている限り、空間的な共鳴・同調現象には注意が払われないように思われます。


心理学者のユングは、多くの患者を診察する過程で、遠く離れて存在しているように見える事物の間にも、たがいに共鳴し同調させようとする見えない力が働いているとし、この現象を「共時性」と呼びました。


そして、
「『共時性』とは、因果関係によらずものごとを結び付ける原理であって、それは意味のある一致において示される」
とし、さらに
「生活の中に共時性が働いているのだということに気付けば、私たちは他人から孤立しているとは感じなくなり、お互いに結び付いていると感じる。私たち自身が、神聖でダイナミックでお互いに関連し合った宇宙の一部分であることを感じる」
と述べています。


時間の経過に着目して因果的に現象をとらえようとする「因果律」の場合は、主体は現象の外にいて観察しているだけということになりますが、「共時性」の場合には、主体はそこで起こる現象にかかわってくるということになります。


ユングは、共時的な出来事の中には、集合的無意識が含まれるといっています。


はるか彼方の大昔から、何億という人間が人間生活を体験して今日に至っているのですが、そのような人間によって獲得された無意識の深層構造を集合的無意識と呼んでいるのです。


私たち一人ひとりの魂は、その上に存在していることになります。


集合的無意識は人類発展の巨大な精神遺産であり、一切の文化の違いのかなたにある人類の共通な実体であると言われていますが、全くその通りですね。


人間は、その根底において動物、植物、そして自然と共感している存在です。
……祖先から子孫へと家系を通じて引き継がれていく心、そして民族が同一の風土的環境の中で育ててきた無意識……お互いに心を通して強く結びついている人間関係(共同体的無意識)の場で、常日頃体験しているのではないでしょうか?


「時間」を考える


古代ギリシャでは、時間には2種類あると考えられていたそうです。一つはクロノス、もう一つはカイロスです。


クロノスというのは客観的に把握できる時間、すなわち日常生活において私たちが“時間”と認識している時間です。自然界には、地球が太陽の周りを一周する周期、月が地球の周りを一周する周期がありますね。私たちは、その周期を機械的に測定して年・月・日を定め、それに準じて生活しているわけですが、このような計測可能な時間がクロノスです。


それとは別に、私たちの人生には、この上もなく絶妙なタイミングが働いて、ことが成就することがありますね。何か自分以外の力が働いているとしか言いようがないことがあるものです。


そのように、宇宙の力が働いて、巡り合わせが起きる“時”があります。


あっという間に時間がたつ、まるで錯覚かと思うくらい絶妙なタイミングで心にしみるような出来事が起こる―そんな“時”は物理的な“時間”というよりも、人生のすべての問題が解決したという感覚があって、別世界の出来事のように感じられるものです。


“時”は“溶き”、“解き”という表現が相応しい、このような時間がカイロスです。


カイロスの時間はその中に一種のエネルギーをもっていて、生命体を成熟させ変化させる力をもっている、と言われています。―このエネルギーの働きが「気」というわけです。


時間は変化を生み出すよう働きかけ、空間にあるすべてのものはそのエネルギーの働きを受けることによって、成長し、成熟し、衰退しつつ変化していくということになります。


ある時間帯においては、世界のすべての事物が、基本的に同じ性質をもつ「気」のエネルギーを受けているわけですから、万物は一定の時間、「気」のエネルギーによって互いに一つに結び付けられているということになります。


アメリカのトランプ大統領をはじめ、世界各地に台頭する極右の勢力、北朝鮮、マレーシア問題など、現代社会は共通の激しいエネルギーの渦に巻き込まれつつあるようです。


カイロスの「時」とうまくお付き合いしたいものですね。

  


Posted by THDstaff at 10:00