2015年02月01日

お伊勢さん

昨年10月28・29日、「もうひとつのお伊勢さん」という旗印を掲げて、お伊勢さんの旅を楽しんできました。


『悟る技術』の著者・橋本陽輔さん、「なんでも仙人シリーズ」の著者・みやがわみちこさんを特別ゲストにお迎えし、総勢40人の面白くて楽しい「お伊勢さん」体験でしたので、その模様をご報告させていただきます。


『悟る技術』の本文中に、不思議な“伊勢の老人”が登場し、ヤノハハキオオカミさんのことが紹介されています。「伊勢神宮の土地を護り、けがれをはらう浄化の神様・ヤノハハキオオカミさんにお願いごとをすると、よく聞いてくださる」というのです。


そこで今回の旅では、ヤノハハキオオカミさんが鎮座されているところにうかがい、日ごろの感謝と守護の願いを込めて、直々にご挨拶いたしました。皆様真剣に祈りをささげておられましたので、きっと素晴らしい未来を開いていかれるのだと思います。


また“伊勢の老人”には、めったに聞くことのできない、「お伊勢さん」にまつわる素晴らしいお話をお聞きすることができ、価値ある2日間を過ごすことができました。


伊勢神宮では、20年ごとに内宮(皇大神宮)と外宮(豊受大神宮)、そして14の別宮のすべての社殿を造りかえる、式年遷宮がおよそ1300年の長きにわたって行われています。


式年遷宮は、皇室の祖神である天照大神が、常にみずみずしく天命を発揮されることを祈って行われます。日本および日本民族が常に若々しく、未来永劫、発展してやまないという「常若の思想」が伝承されているのです。


2013年(平成25年)10月、21世紀になって初めての式年遷宮が行われました。



日々新た


私どもでは、日々の仕事を天から与えられた天職ととらえ、マンネリに陥ることのないように「日々新た」の精神を心に刻んで、皆様のお役にたつことを願っています。いつも新鮮でありたいと思っているのですが、お伊勢さんでは、「新(あら)た」と「新(あたら)しい」ということは違うのだということを痛切に感じたことでした。


現代という時代は時の流れが目まぐるしく速くなっていて、ついつい新しいもの、新しい情報を求めることが癖になり、古いものは切り捨てていくという傾向があるように見えます。ところがお伊勢さんは違います。1300年以上も前のことが、20年に一度の遷宮によって、いまここによみがえり、その記憶をいまここで、新ためて感じることができるのです。そして心が“新た”まるのです。


古来伝わる神明造りで、神殿を一寸の狂いもなく建て直すという驚異的な祭りが、神代の頃より1300年の永きにわたって繰り返し、繰り返し行われてきました。その度に、時代を超えて人々の記憶はよみがえり、継承されてきたわけです。


神明造りや神宝を引き継いできた匠の技もさることながら、その背景にある悠久の自然に包み込まれたお伊勢さん。神代の頃より継承され現代人の心によみがえったお伊勢さん。「新たな美しさ」にすっかり魅惑された「もうひとつのお伊勢さん」でした。



脳にやさしいお伊勢さん


現代社会には様々な現代病がはびこっています。人の脳の奥深い部分、すなわち脳幹、視床、視床下部などで構成される脳基幹部の活力が低下することによって、さまざまな現代病が生まれているのだそうです。一般的な薬物療法では、脳基幹部の活性低下を改善することができず、事態は深刻化しているといわれています。


脳科学者・大橋力氏は「人間の知覚限界を大きくうわまわる超高密度で複雑な視聴覚情報によって、脳基幹部の活性を高めることができる」ということを発見されました。


人間の耳に聞こえる音は20ヘルツから20キロヘルツで、これ以上高い音を聞くことはできないことが知られています。


ところが人間の耳には聞こえないはずの超高周波(20キロヘルツから100キロヘルツを超える)を豊富に含む音に接していると、脳基幹部が活性化するということを発見されたのです。


そして脳基幹部が活性化すると、美と快感をつかさどる前頭前野などの脳内部位が活性化することも発見されたのでした。大橋力氏によりますと、「脳を活性化する高密度情報は、自然性の高い熱帯雨林や、バリ島の祝祭空間などに広がる光や音の中に豊富にある。逆に脳の活性を低下させる低密度情報は、自然環境から切り離された現代の都市環境に特徴的」なのだそうです。


熱帯雨林などの環境には、鳥や虫の鳴き声、川のせせらぎ、風に揺れる木々のざわめきなどの音が満ち満ちていて、130キロヘルツの高周波の音が発生することもまれではないのだそうです。


一方、私たちの都市空間に含まれる環境音は10キロヘルツを超えることもあまりないそうなのです。したがって、現代の都市空間では、脳の奥深い部分が活性化することもあまりないということになります。


世界各地の熱帯雨林を調査しておられる大橋氏は、神宮の大鳥居をくぐり、五十鈴川にかかる橋の上から見る川の流れは、熱帯雨林にそっくりなパターンをもっていると指摘しておられます。


また神宮を満たしている環境音も、熱帯雨林の環境音にひけをとらない密度と複雑性を備えているとして、伊勢神宮こそ、現代人の心と体を癒す「脳にやさしい桃源郷」の究極の姿の一つといえるのではないか、と述べておられます。
(出典:神宮司庁広報誌「瑞垣」第197号)



日本の原点


日本は小さな島国ですが、近代以降に限っても、明治維新、太平洋戦争という二度にわたる大事件がありました。その度に外来文化の大波に洗われ、現在に至っています。


鎖国によって200年以上の長きにわたって、海外への門戸を閉ざしていた我が国ですが、1853年、ペリー率いる4隻の黒船が、突如浦賀沖に現われました。大混乱の末、明治維新を成し遂げ、西洋文明を100%受け入れることにより文明は開化していきました。


時は移り昭和14年(1939年)、ヨーロッパ全土を巻き込んで、第2次世界大戦が勃発し、昭和16年(1941年)、太平洋戦争の幕が切って落とされました。


昭和20年(1945年)、終戦を迎え、日本人は食べるものにも事欠く、すってんてんの焼け跡から立ち上がり現在に至っています。


この間激しい西欧化の波が怒涛のような勢いで押し寄せ、私たちの文明が形成されていきました。


それでも日本および日本人のアイデンティティを失うことなく、東北大震災をはじめさまざまな難関を乗り越えることのできた背景には、20年に一度、神代さながらに神遷しの祭りを繰り返し行うことによって、日本人の深い無意識に刻印された魂の記憶が更新され、継承されてきたことがあるのかもしれません。


20世紀を代表する心理学者カール・G・ユングの言葉が思い出されます。「神話や夢、希望は心の表層でつくられるのではなく、集合的無意識から吹き上げてくる。それがあるからこそ生きられるのだ」


どれだけ強い外来文化にさらされようとも、立ち返るべき日本の原点が「お伊勢さん」にはあるように思うのです。




Posted by THDstaff at 10:00